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プランゲ文庫のこと<中> |
| 谷 暎子 |
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戦後・児童出版物の中で、探索が最も難しいのは新聞である。私が探し出せた子ども新聞は四種だが、プランゲ文庫には十四紙保存されていたのだから本当に驚く。札幌九、函館一、室蘭二、名寄一、上砂川一紙である。新聞社発行の「新北海中学生タイムス」「少年少女北海道新聞」、小出版社発行の「子供の国」「子供写真新聞」など、そして児童文化団体の機関紙「ひばり」の三種に大別できよう。当時の出版物の中でも、子ども新聞の紙質は悪く、屑(くず)紙をすきかえして作った粗末な仙花紙の使用も目立つ。変色し自壊寸前の新聞もあって、永久保存の限界だったことを知る。 科学新聞「子供の国」は、全国各地で発行された新聞のなかでも、ユニークな新聞の一つである。発行は財団法人・子供の国。創刊は一九四六年五月で、七月には「こどもりくに幼年版」を発行。四九年九月には二つを合併・改題して「子供の国科学新聞」となった。アメリカの国立公文書館で見つけた検閲文書には、「子供の国科学新聞」の発行部数は五千と記されていたが、最盛期はもっと多かったに違いない。当時の子ども新聞の中では長命で、およそ三年半ほど道内の子どもたちに親しまれた。「幼年版」と「子供の国科学新聞」は、当時としては珍しい二色刷りである。 |
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財団法人・子供の国は青少年の健全育成を目的に、四六年三月に設立された。当時の理事は佐藤喜一郎(共同通信社札幌支社長)、原田三夫(科学ジャーナリスト)、小熊捍(北大低温科学研究所長)、鈴木醇(北大理学部長)、中尾軍次郎(日本映画社札幌支店長)など。顧問に宮部金吾、評議員に高田冨与の名も見られる。趣意書によると「心の底から平和と自由を愛する文化国民に育てる」には、これまで顧みられなかった校外教育を充実させることが急務と訴えている。「子供会館を建て、その中に図書館、博物館、講堂、ここでは講演、映画会、音楽会、演劇会などを常設的に行う。天文台や観測所、実験室、工作室等」を設け、子どもたちが楽しみながら学べるようにしたいと。その資金を得るため「収入ある事業」として考えられたのが新聞の発行だった。 |
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編集主幹は原田三夫で、雑誌「子供の科学」の編集主幹として活躍し、科学知識普及の第一人者として知られる。東京から札幌に疎開している間、新聞の編集主幹、科学絵本や読み物を執筆し活躍。「子供の国」は旬刊で、タブロイド判四n。科学に関する記事の他、国内外のニュース、新聞童話、投稿欄、漫画など。科学記事は原田三夫や原田と親交のあった小熊、鈴木はじめ北大理学部の研究者たちの協力があった。中央からは星の研究家・野尻抱影が寄稿。時折、掲載される子どもたちの質問欄がおもしろい。「虹(にじ)はどうしてできるの。プリズムを通すと虹と同じ色がうつるのはどうして」「ビートを輪切りにすると年輪のようなものがあります。あれは何、どうしてできたの」「目が二つあっても、ものが一つに見えるのはなぜ」などの疑問に、真摯(しんし)に答えていて興味深い。 若き日、「子供の国」の編集をされていた井口幸治氏から、これまで何度もお話を聞かせていただいた。井口氏のお話とプランゲ文庫にあった百三十五部の新聞によって、より詳しく財団法人・子供の国の足跡を辿(たど)ることができた。 新聞を発行しながら、絵本、科学読み物を出版、児童映画会、野外理科教室、工作会、写生会などの児童文化活動を展開。映画会は東宝系の映画館を午前中開放してもらっての開催で札幌、小樽、函館、室蘭、旭川の学童の三分の一が楽しんだと記録されている。 |
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子供の国らしい企画は野外理科教室。藻岩山や豊平川河畔で開催し、原田をはじめ北大の小熊、鈴木、舘脇操、常木勝治などが講師。藻岩山では動物、植物、地質や地形について話を聞き、観察しながら登山。野外教室は、旭川でも行われたという。四八年には、三越デパートを借りて少年劇場を開催。若い社員達が「子どもに直接ふれたい」と企画し、公演の成功がきっかけで専門人形劇団「クレオン座」が誕生するという思いがけない展開が興味をひく。 プランゲ文庫で初めて知った新聞の一つに、「ひばり」がある。文庫に保存されているのは四九年の四部だけだが、発行は上砂川炭鉱児童文化会。戦後、炭鉱が日本再建の鍵(かぎ)を握る産業として注目されていたときだけに、当時の新聞には炭鉱の記事がよく載っている。「ひばり」にも「石炭はどうしてできるか」などを連載。また、各地炭鉱の子ども会活動が紹介されていて、炭鉱の子ども会活動を知る資料としても貴重。北海道で初めて炭鉱図書館が開設されたのも上砂川。機関紙「読書春秋」は、炭鉱図書館や炭鉱文化について論じている。子ども会活動が活発なのは、上砂川での文化活動の高揚が背景になっているのかもしれないと思った。 児童書整理の過程で見つけた吉田一穂の新たな資料、本庄陸男の「石狩川」の検閲文書など、プランゲ文庫の協力で北海道文学館の特別展に展示できたことは、思いがけない成果だった。 |
(たに・えいこ=北星学園女子短大教授) |